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2005年04月21日

アイダダ アイダ

仕事帰りにジャスコの本屋を覗いたが、田中圭一の「鬼堂龍太郎」がなくてションボリ。店員さんに聞くのがちょっと恥ずかしかったので、新刊予定を指差して「これ、入ってますか?」と聞く私のチキンさよ。
レジに持っていくのはかまわんが、店員さんに尋ねるとなると、何だろう、女一匹、夕方混んでるスーパーで男性店員相手にコンドーム差し出して買うと同程度くらいの恥ずかしさがありますな。
おかげでついこんなもん買っちゃったじゃないかよぅ。
というわけで、

hanabiki1.jpg「花引き ヴォルガ竹之丞伝」1 原作・小池一夫/作画・ふんわり
竹書房 近代麻雀コミックス

麻雀マンガというのは、確実に一ジャンルを築き、名作も珍品も生み出してきたわけだが、どうしても「すみっこジャンル」であるのは否めないと思う。特有の濃さ・男臭さ・裏通り臭さに加えて、「麻雀が分からないと、何が凄くて何が面白いのか伝わらない」という枠組みがどうしても伴うからだと思う。
小池御大、これまでも麻雀マンガをものしたことがないではないが、20年封印していた豪腕(阿佐田哲也や畑正憲らと凌ぎを削るほどの麻雀打ちだとは、寡聞にして前書きを読むまで知らなかった)を引っさげて殴りこんだ入魂の本作。
ハッキリ言って、珍品トンデモの多い麻雀マンガ史に残る大珍品である。と断言してしまおう。
とにかくこいつら、麻雀を打たない。
そう、打たずに「引く」。それのみでこの作品は成り立っているのだ。

ギャンブルマンガの主人公というものは、最初が肝心だ。名作の主人公たちを思い浮かべれば皆そうだが、登場時の初バトルで、「どのような戦い方をする奴なのか」を強烈に印象付け、その鮮烈な勝ちっぷりでキャラをビシッと立ててこそ、読者の目を引くことができる。
そして、「キャラを立たせる」事にかけては自他ともに日本一の自負に溢れる小池御大の仕事。一話目から際立ちまくりだ。

新宿は歌舞伎町の雀荘に、ふらりと訪れた主人公・竹之丞。いいところなく負け続けて、点箱の中はわずかに100点棒一本のみ(器用な負け方だ)。しかし勝ち誇る他メンツに、「続けましょう」と涼しい顔。
さあここからが小池ワールド。
おもむろにCDを取り出して店主に渡し、

「ねえ おやっさン これかけて
 世界の名曲 ヴォルガの舟歌」

ヴォルガの舟歌のCDを持ち歩く雀士。いきなりワンアンドオンリー。
リクエストの曲が鳴り渡る店内。竹之丞も

えいこーら えいこーら
もひとつ もひとつ えいこーら

と歌いながら牌を引いていく。

麻雀マンガでキャラを立たせる一つの方法として、「牌を引く(もしくは切る、哭く)時のキメ台詞」がある。古くは「はっぽうやぶれ」の「オッショイ」に始まり、「背中が煤けてるぜ」「来たぜ ぬるりと」「爆牌」「ツカンポ」等等、まあ色々あるわけだ。
そして竹之丞は「えいこーら」。ある意味、あの「ぶりぶり」にも匹敵する唐突さ。
いきなり歴史を作り出すあたり、さすが小池キャラ。
えいこーら言い始めたら、俄然良いところが雪之丞に入りだす。そして


hanabiki3.jpg
「えいこ~らっ!」
「四暗刻字一色大四喜でトリプル役満!」

先生…手加減ナシにも程ってものが…

さて、小池マンガの名物の一つに、「比翼連理の夫婦バトル」がある。
「デュエット」や「クライングフリーマン」あたりが代表格だが、主人公と魂で結ばれた妻や恋人(このとき、入籍の有無に関わらず「女房(バシタ)」と呼ぶのが基本)が共に死地に赴き命をかけて戦う、というフォーマットだ。そしてこの作品もご多分に漏れず、竹之丞のそばにはいつも17歳のロシア美少女・エペが連れ添っている。
彼女も勿論普通の女ではない。
元アイドルシンガー(あからさまにTATOOを意識したコスチュームが1コマあった)だが、その正体は、

ロシアンマフィアの命を受けてヴォルガ・トレニロブカ研究所が作り上げた世界でもっともツキの流れを吸い込める女
四代に渡り、最高のモチベーションを有する男女を交配させて産ませた・究極の上げマン(ほぼ原文ママ)

である。これが貴方の理性による理解の範疇に収まろうがはみ出そうが、そういうことらしいのである。
彼女が側にいるからこそ、竹之丞は「花引き」と呼ばれるほどの超人的な引きを見せることができるのだ。
んで、「せっかくの逸材のツキを雀ゴロごときに吸い取られ尽くしてはたまらない」とロシアンマフィアが絡んでくる、と。そんな展開。

ところで、竹之丞が「ヴォルガ竹之丞」という名で呼ばれるのにも、「えいこーら」ウルサイというだけでなく、彼女が関係している。

ルビが小さいですが「えいこーら!もひとつ!もひとつ!」と叫んでます

そう、本当にえいこーらえいこーら五月蝿いのは竹之丞ではなく、「ファック中の彼女」なのだ。アレの最中に「もひとつ!もひとつ!」とか言い出す女ってヤじゃないか、なんか。
絶対隣に住みたくない連中である。
ちなみにこの二人、撒き散らした麻雀牌の上でまぐわってる(だからガチャガチャいってる)のだが…相当痛いと思うのだが、小池漫画の中でも屈指の珍SEXではなかろうか。

単行本一冊中にどれだけ色々詰まってンのよ、って感じだが、麻雀マンガにもう一つ必要不可欠なのが「ライバル」の存在である事は言うまでもない。ライバルもキャラが立っていて、絶望的な強さを見せれば見せるほど戦いには緊張感が生まれ、主人公が光り輝く。
1巻での竹之丞のライバルは、「鬼引き」こと「昭和礼次郎」。

殺す前に殺す相手と麻雀をし、相手が勝ったら殺されずに見逃してもらえるが、負けたらその場で殺される

という、殺し屋なんだか雀士なんだかわからないが、いかにも「古い男とお思いでしょうが」って感じの風貌と着流しが渋い男。確実なのは、雀荘の主人はいい迷惑という事だ。彼もまた

日本の帝国陸軍が作り上げた ツキの流れを変える男(原文ママ)

らしい。もうなんだか良く分からないが、1巻の最期では何かと忙しい目に遭う(読むと分かる)男である。

いきなり
hanabiki4.jpg
「麻雀はオカルト」と言い切って演説ぶったり、

毛ジラミを退治するには水銀軟膏を使うしかねえ 他のものはダメなンだ そういうところが好きなのさ」

とシミジミ語りだしたり、ナイスに暇がない。

他にも
・「發」と書いて「ルンバ」と読む
・メンバーみんなパンツ一丁で卓を囲む
・ハジキVS小便
・メンツの後ろに死人放置
・ゴーストタウンの管理はゴーストに

など、見所いろいろ。

「牌引く前に読者引きまくり」とか色々言われてもいるようだが、キャラがこれでもか立つどころかとエレクチオンしまくってるこの作品、なかなか売ってないので(ブックオフに出るのを待つのもあまりにも不確実なので)つい買ってしまった…
2巻は出るのだろうか…
ところで主人公の名前は、やっぱり竹書房だから竹之丞なのだろうか…

その他購入物

*「毎日かあさん 登校編」 西原理恵子

<以下ブックオフ>
*「柳生十兵衛死す」上・下 山田風太郎
*「魔界転生」上・下 山田風太郎
     (ロコツなラインナップだ…)
*「ムーミン谷の彗星」 トーベ・ヤンソン

投稿者 zerodama : 2005年04月21日 15:37

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