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2005年06月27日

炎の筆魂 参之拳

1・2に収録されなかった短編・中篇集。
何かとダブりがありそうかな…と思いつつ購入したのだが、意外なことにほとんどが初見だった。よかったよかった。
1987~89年頃に発表された作品群がメインなのだが、あとがきで島本先生が文字通り穴に入ったりしながら

調子わるい時は ちゃんと調子のわるいものを次々と描いているな!すがすがしいほどに!俺は!

と力強く叫んでいる通り(そんなコメントでもきっちりと無用に力強いのが島本イズムなのだ)、ちょいと微妙な作品も多い。はっきりいうと、「傑作選」と言い切るには少し弱い感じ。レアなものが多い&単行本発収録の作品も多いのでファン的にはマストバイではあるのだが。
とは言いつつも、私としては島本和彦傑作ベスト3に入れたいマスターピース「マグマ大使 地上最大のロケット人間の巻(1999年 COMIC CUE vol.6に掲載)」が収録されている。島本ファンでこれを読んだ事がない方は確実に損してる、と言い切っちゃうくらい面白いので、未読の人はそれだけでも購入価値があるだろう。

*「一番星のジャッカル」
単独単行本になった「流れ星ジャッカル」のパイロット版?3回の集中連載だったようだ。
ちまっとした作品ではあるが、意外に「流れ星」よりもテンポ良く読めた。
2つを読み比べると、島本和彦の描く女性の体型のものすごい変化が印象に残る。

(初期:ゆかりちゃんに代表されるナイチチ・隙間フトモモスレンダー(松本伊代系))
   ↓<おそらくこの間に森高千里とかを経由>
(その後:メリハリ美乳(時に巨乳も))

*「ファイナルワン」
原作が史村翔。
主人公が腕利きのパイロット。
ジャンボを自由自在に操り、名前が「ダテ」
脇役のアメリカ人が「ミック(もう「ミッキー」って言っちゃえよ)。」
というわけで、なんか明らかに他の大御所先生(「し」の付く人)が描くはずだったんじゃないか?なんてことを失礼にも思ってしまったり…

つまりは伊達さんが「ALICE12」を短編でやりました、という内容。ゆえに可もなく不可もない読後感だが、上記発言から「『マグマ大使』と『ファイナルワン』は別として…」と除外しているので、先生的には思い入れのある作品のようだ。事実、各方面にリスペクトしつつ丁寧に描いたという誠実さは伝わってくる。

*「マグマ大使」
「ジェッターマルスも入ります!」は何回読んでも痺れるね!
そしてサンダーマスク。もー好きにして。

この時期の作品をまとめて読むと、あとがきでも炎尾先生が言っている通り
「ほんとうにロッキー好きだったんだねえ」
というのがよく分かる。
ロッキーに限らず、上に挙げた女性の体型なんかでもそうなのだが、
「その当時、島本先生が何に入れ込んでいたのか」
が、ものすごくストレートに作品に出る人なんだな
、と改めて実感する。

酒井紀子とか森高千里とか宮村優子とかはまだしも、豊田真奈美とか女子プロレスに関しては、今どう思ってるのだろうか。気になる。

作品群の多くは、1987~88年、つまり「仮面ボクサー」や「逆境ナイン」の直前あたりのものだ。
デビュー時期から島本和彦を読んでいる人には、これだけで「微妙な作品が多い」ことに頷いていただけると思う。
本人も、

いろいろなイミで全ての自信を失っていた時期だ!(あとがきマンガ)

と言い切っている。
「炎の転校生」で、天与の熱血体質と、同時に「熱血」に対する絶妙な距離と取り扱いをセンスを披露し、ファンをひきつけた…と私は思う。少なくとも私は「炎の転校生」で大いにグッと来た(80年代にあるまじきガクランのボタンの、石ノ森チックなでっかさからしてグッと来てしまったのだが)。今読むと、悪い意味でサンデー的な「ちんまりとしたまとまり」や、熱血に対する照れ、勢いがまとまりきってない部分も感じるのだが、この後の数作でモロにそれが出てしまっていたと感じた。
「燃えるV」とか「とつげきウルフ」あたりの時期で、きっちり買いながらも「なんかイマイチで惜しい」という飛距離不足の感が否めなかった。正直、この人は「炎の転校生」だけなのかな…と思った時期が少し続き、離れかけたところで「仮面ボクサー」で引き戻され、「逆境ナイン」「燃えよペン」で「やっぱり読んでてよかった島本和彦!」と拳を握った…こんな流れで読んでいたファンはけっこう多かったんじゃないだろうか。
その頃は漠然と「この人って、小学館みたいな大手じゃなくて、徳間とか竹書房みたいな中堅でやりたい放題できる出版社のほうがイキイキするんじゃん!」とだけ思っていた。「少年キャプテン」に大塚氏・ササキバラ氏が関わっていた事の意味を知るのはもっとずっと後の話だ。
そう考えると、島本ヒストリー的な意味合いのある一冊とも言えるのかな…

(朝日ソノラマ:本体838円)

投稿者 zerodama : 2005年06月27日 22:30

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